はじめに
オンライン契約や非対面取引の拡大に伴い、金融業界以外でもeKYC導入を検討する企業が増えています。特に不動産契約や中古取引、CtoCプラットフォームなどでは、ユーザー登録や契約時に本人確認を行う必要があり、オンラインで本人確認を完結できる仕組みとしてeKYCへの関心が高まっています。
従来、不動産取引や中古取引における本人確認は、対面確認や書類提出によって行われるケースが一般的でした。しかしサービスのオンライン化が進む中で、対面手続きだけでは対応が難しい場面も増えています。こうした背景から、オンラインで本人確認を完結できるeKYCの導入が注目されています。
一方で、不動産業界や中古取引サービスは金融機関とは事業構造や取引リスクが異なるため、金融向けeKYCの仕組みをそのまま導入すると、ユーザー離脱や運用負荷の増加につながる可能性もあります。本記事では、金融業界以外のサービス、特に不動産や中古取引でeKYC導入を進める際の注意点について整理します。
1.取引リスクに応じた本人確認方式の選定
eKYC導入を検討する際にまず重要になるのが、自社サービスの取引リスクに応じた本人確認方式の選定です。金融機関では犯収法に基づいた厳格な本人確認が求められますが、不動産取引や中古品売買では必ずしも同じレベルの確認が必要とは限りません。
例えば、不動産契約のように取引金額が大きいケースでは厳格な本人確認が必要になる場合があります。一方で、中古取引サービスなどでは過度に複雑な本人確認プロセスがユーザー離脱につながる可能性もあります。
そのため、不動産eKYCや中古取引の本人確認では、取引金額や不正リスク、サービスの利用形態などを踏まえ、自社サービスに適したeKYC方式を選定することが重要になります。
2.ユーザー体験を考慮したUI/UX設計
金融サービスの場合、ユーザーは本人確認手続きにある程度の時間や手間がかかることを理解しています。しかし不動産の問い合わせや中古取引の利用では、ユーザーは必ずしも本人確認を前提としてサービスを利用しているわけではありません。
そのため、本人確認の手続きが複雑になるほど途中離脱が増える可能性があります。特にスマートフォンでの利用が中心となるサービスでは、eKYCのUI/UX設計が本人確認成功率に大きく影響します。
撮影手順が分かりにくい、入力項目が多い、処理に時間がかかるといった要因はユーザー体験を損なう原因になります。ユーザーが迷わず手続きを完了できるよう、撮影ガイドの表示や入力項目の簡略化など、スムーズに本人確認を進められる設計が求められます。
3.業務フローとの整合性
金融業界では本人確認プロセスが業務フローの中に体系的に組み込まれていますが、金融業界以外では既存の業務に後付けでeKYCを導入するケースも少なくありません。
例えば、不動産サービスでは契約前に本人確認を実施するケースもあれば、ユーザー登録時に本人確認を求めるケースもあります。また中古取引プラットフォームでは、取引開始時や出品時に本人確認を求めることもあります。
このように、eKYC導入のタイミングはサービスの設計によって大きく変わります。そのため、申込から契約までの業務プロセスを整理した上で、どの段階で本人確認を行うのが最も適切かを検討することが重要になります。
4.不正対策と運用体制
近年は偽造身分証やディープフェイクなどを利用した不正も増えており、オンライン本人確認の重要性はさらに高まっています。そのため、eKYC導入時には単に本人確認をオンライン化するだけでなく、不正対策の観点から運用体制を整える必要があります。
AIによる自動判定を活用することで本人確認プロセスを効率化できますが、すべてを自動化すると不正を見逃す可能性もあります。そのため、AI判定とオペレーターによる目視確認を適切に組み合わせることで、セキュリティと運用効率のバランスを取ることが重要になります。
まとめ
金融業界以外でも、不動産取引や中古取引などのオンライン化が進む中で、eKYC導入は本人確認の効率化と不正対策の両面で重要な役割を果たしています。ただし、金融機関と同じ仕組みをそのまま導入するのではなく、取引リスクやユーザー体験、業務フローとの整合性などを踏まえた設計が必要になります。
不動産サービスや中古取引プラットフォームなど、それぞれのサービス特性に合わせた形でeKYCを導入することが、オンライン取引の安全性と利便性の向上につながると言えるでしょう。







